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 なんの前触れもなく、健太がいきなり
「ぎゃーーー」
 という悲鳴を上げて飛び起きたので焦った。

 ベッドに正座して、手を上から下に振り降ろして「落ちる」というジェスチャー。
 すぐにぼくを確認するとうっすらと笑い、横にヒカルが寝ていることを確認して、ヒカルに張り付く様にまた寝た。

 怪我したとき(こちら)の夢を見たのだと思う。

 

 段差や階段に近づくと「だーーーーん」と言いながら落ちたジェスチャーをして「あー」と言いながらぶつけた箇所を指さして「ここを痛くした」と、再現VTR風に訴えている。
 強烈な体験を抱え込むとトラウマになるが、喋ったり人に伝えることで体験が整理されて受け止められる様になるらしい。
 それを思うと(痛くて怖い思いをしたのは可哀そうだけれど)危険を学習して、訴え続けることで、健太なりに恐怖を乗り越えようとしているのだから、こんなに小さいのに本当に偉い。

 

 覚醒時に得た情報や刺激にタグ付けして、インデックス化して、脳のどこに保存するか決めて、どの記憶とどの記憶をどう繋げるか最適化するのが「夢を見る」ということだと思うが、健太も夢の中で記憶の最適化してると思うと脳の成長と発達システムって神秘的。
 ほんとよくできたシステムだと思うし、よくできたシステムだから残っている(続いている)わけだ。

 

 〆切りや仕事や人間関係で追いつめられた状況だと、追いつめられた系の悪夢を見て寝汗びっしょりということが多い。
 逆に浮かれている状況だと、浮かれた系の夢を見てニヤケていることが多い。
 要するに夢は日常に引っ張られるのだけれど、メチャクチャな寝相で爆睡しているアホ面の健太でも、怪我したときの悪夢を見てるのかと思うと不憫だ…。

 

 またうなされないか心配になったのでつついてみたら、ムニャムニャいいながら(父を超えるアホ面で)ニヤケた。
 美女とぱふぱふしてる夢でも見てるのかも知れないので、邪魔しない方がよさそう。