徒歩10分の油面公園か徒歩20分の林試の森が定番コースだったのに、昼のタオの散歩は近所をまわるだけのことが多くなった。
13歳のタオは人間でいえば70歳越え。身体を動かした方が血液の循環がよくなるから適度な運動をさせた方がいいが、それでも走るなどの過度な運動は心臓に負担がかかるので1日10分くらいの散歩でいいと獣医さんもいっていた。
ゆっくりゆっくり、ひとつひとつの匂いを嗅いで確認しつつ歩みを進めるタオ。あまり遠くに行きたがらずに行動半径が狭まってせいで、今まで素通りしていた近所の情報収集の密度が上がっている。
A地点からB地点に車で移動したら10分だとしよう。チャリで移動したら20分。歩いたら30分とする。
1時間後に戻って来なくてはならない場合、車だと往復で20分かかるので、向かった先のB地点に40分滞在することができる。
チャリだと往復で40分かかるので、向かった先のB地点に滞在できる時間は20分。車の半分だ。
歩きだと往復で60分かかるので、向かった先のB地点に滞在できる時間はない。
やっぱりスピードが速い移動手段は効率がいい。しかしそれはB地点での滞在時間をメインとした場合の話しだ。
タオと過ごす時間はA地点からの移動とB地点からの移動が全てであり、それが大切なのだ。
10分程度近所をまわって帰宅し、水を飲んだ後に満足気でベッドに飛び上がって午睡をむさぼるタオ。
B地点に滞在する時間がタオと一緒に過ごす時間だとしたら、ガソリン浪費してCo2をまき散らすことは許してもらって車ですっ飛んで行こう。
しかしどうやらそれは違う。
A地点がタオと出会ったときで、B地点はタオと別れるときなのだ。
だとすれば急いでB地点に向かう必要は全くない。B地点までの残された時間と距離を、ゆっくりと、ゆっくりと、タオのペースで一緒に歩めばいい。