主役を引き立てるどころか、時として主役を食ってしまう脇役がいる。
目立たぬ佇まい。消して華美ではない存在感…。
この10年の間にそんな脇役と出会う機会が増えた。
例えばそれは柚子胡椒。
四国の人には当たり前の存在だったのでしょうけれど、10年くらい前に柚子胡椒に初めて出会ってから鍋ライフが激変。完全なる一目ぼれ。肉や魚や野菜という具がメインというよりも、柚子胡椒が食べたくて鍋をするときがあるくらいに溺愛。
これぞまさしく薬味界の下克上。
大部屋の脇役が主役に抜擢された瞬間。
そしてもう1つが黒七味。
元禄より一子相伝で守り伝えた秘伝の味だそうだが、このオリジナリティーっぷりは凄い。
代替品を寄せ付けぬ孤高の気高さ。
ぼくが初めて黒七味に出会ったのは近所の料理屋の波だと思う。
そして黒七味の底知れぬ実力に気付かせてくれたのが「めん徳二代目・つじ田」だった。
それ以来、完全に虜ロール。
例えば美味しいすき焼きを食べたいときには、美味しいお肉を買うに限る。
しかしそれは高いし正攻法過ぎて芸がない。
そこで玉子を変えてみる。
6個入り200円くらいの普通の玉子に別れを告げて、6個入り500円くらいの玉子を買ってみる。
するとどうでしょう!
その差300円なのに、霜降りの100グラム1000円くらいするお肉を食べてるかと錯覚するくらいに旨い。
本質を変えてしまうくらいの脇役の働きって凄いし楽しい。
…でもそれって、化粧やファッションや肩書きや乗ってる車や時計やバッグで飾ることで、本質をよく見せたいみたいな小賢しさでもある。
素材本来の味だけで勝負する方が美しい気もする。
裸が1番美しいとか、何もつけずに冷奴みたいなのがすがすがしい。
…とはいえ柚子胡椒と黒七味には心を奪われっ放しなのです。